2004年に勤めていた中国電力を突如退職して、4月に青山学院大学・陸上競技部長距離ブロック監督に就任した原晋監督。当時、妻の美穂さんは「夫婦で東京の寮に住み込もう」と言われ、寝耳に水だったと言います。
それから19年が経ち、300名近い卒業生を送り出し、新入生を迎え入れてきた寮母・美穂さんは学生から慕われる「おかあさんのような存在」。時には相談に乗り、時には自分で考えさせる力を身に付けさせて社会に出ても通用する人間を育ててきました。
そんな美穂さんに寮母としての役割や学生達とのかかわりを語っていただきました。
本日はよろしくお願いいたします。先ず1日の決まったスケジュールがあれば聞かせてください。
寮母の毎日のスケジュールは、まず、みんなの朝ごはんですね。寮には大量の食事を作る大きな施設がないので、相模原キャンパスの学食からケータリングでドーンと送ってきていただいています。それが届くのが大体6時から6時30分位の間で、その間に私も食堂に下りてお米とお茶等を用意します。それを確認して朝練習が終わるまでの間に食事の配膳をするというのが1日の最初の仕事ですね。
学生は全員練習していますので練習時間に合わせてという感じです。差し入れも結構いただいたりしていますので、フルーツを切ったりとか、今日はたくさん走っているからボリュームが足らないと思ったら解凍していたお肉を焼いておくこともあります。みんなすごく喜びますね。学生が「いただきます」をしたら、自室に戻って原監督の朝食の用意をします。
お米はどの位炊くのですか。
1食につき3升ではちょっと足りないので、4つの炊飯器をフル稼働しています。昼食は自炊している学生もいるので1升位はなくなっちゃいます。大学に行く学生は学食で食べますが、4年生にもなるとほとんど大学には行かないで寮にいますので、外食したり、自分で作ったり、総菜だけを買ってきてご飯食べたりしていますね。「ご飯はいつでもあるよ」と伝えています。お蔭様でお米も沢山差し入れをいただいているので、美味しい出来立てのご飯だけは常時食べられるようにしています。
買い物はどうしていますか。
夕食までの空いている間に、毎日ではないですがトイレットペーパー、ボディソープ、シャンプー等なくなるのが速くて1週間に1・2回位は買い出しに行きます。届けてもらうものも中にはありますが、かなりの量を購入するので車を運転して行きます。買い過ぎてお店の人には不審者だと思われていますね(笑い)普通に毎日やることはそういうことです。
夕食の準備はどうですか。
夕食の時間はその曜日によって少しずつ変わりますが、下準備をします。夕食は1年生が始まる20分前に集まって一緒に配膳することになっています。私はその配膳がすぐできるようにしておいて、学生たちが「いただきます」をするまで食堂に居て、夜は終わりです。
食べた後の片付けは各自ですか。
片付けは各自食器を水で流して、1年生が翌日のために食器を片付けます。毎日やることはそんなところですが、細かいことを言ったら何かしらでてきます。誰かが病気になったとか、急に水が詰まっただとか、トイレが詰まったと言われると大学に連絡して修理を依頼したりしています。今は電球がLEDになったから良いものの、前は電球が切れたら買いに行っていました。
過去に町田寮がテレビで紹介されていた時に、美穂さんは本当に忙しく動いて、でも笑顔を絶やさない素晴らしい笑顔だなぁ、といつも思っていました。
忙しいと言うよりも、学生とかかわるのが仕事だと思っています。楽しく寮生活を送ってもらうとか何かあったりした時は頼ってもらうとかするのが必要だと思っているので、喋っているだけで結構時間が経ってしまいます。ここで喋って、あそこで喋ったりしている間に、「あっ!夜ご飯の支度しなきゃ・・」という日も結構あったりするんですよ。
学生たちは不安だから美穂さんにちょっとでも関わっ
てもらうと安心するのではないでしょうか。
そうですね。特に1年生は最初の頃はちょっと分からないと
ころがあるので、気を付けて見て「何か困っていることはあ
るかな」と考えながら接するようにしています。
美穂さんは何と呼ばれているんですか。
「奥さん」と呼ばれています。最初は「奥さんっておかしいですよね」、みんなに奥さんと呼ばれたら「誰の奥さんよ?という感じじゃないの」と保護者から言われたことがあるんですよ。
夫が最初監督になった時に、学生が監督と言いづらかったみたいです。学生時代と社会人時代に駅伝選手を経験はしていたものの、サラリーマンから36歳の若さで初めて監督になったこともあって、多分、その時いた学生が「この人、何と呼ぼうかな」ってなったのではないかと思います。いきなり「監督です」って来られて「監督?」「本当に出来るの?」とあったのかもしれないです。それで、最初学生たちは監督のことを「原さん」と呼んでいましたよ。私も原さんじゃないですか。なので「何と呼びましょうか?」と言われたのですが、おそらく「原さんの奥さん」からそのまま「奥さん」になっちゃったのかな(笑い)っていう感じですね。
先ほども出ていたのですが、料理のことを何点か伺いたいと思います。
選手たちの馬力を作るのに、意識的に摂るようにしている食材は何かありますか。
こういう食事をこう摂ったらいいと講義をしてくれる方がいますが、メニューは学食に任せています。一番は白米とか玄米ですね。お米を1食300g以上は摂りなさいと言います。やはり炭水化物。学校の行き来で10㎞、グラウンド・キャンパス内での練習や朝練習でも同じくらいの距離を糖分を使って走りますので、お米の摂取量はすごいです。最近はお米の減りが激しくて。秤に乗せて「俺は300g。あっ!ぴったりだ」と言いながら楽しんでいます。みんな研究熱心で疲労回復にはブロッコリーがよいとか納豆、緑黄色野菜がよいとか、学生自身が意識的に摂っています。
好き嫌いがあると思いますが。
出されたものは全部食べる。それは基本ですね。一応、学食もバランスを考えている食事だと思いますが、ただそれがアスリートのためなのかなと思うとちょっと違う点もあると思いますが。食事は好き嫌い無しに食べないと栄養素が全部摂れないので、食べなさいとは言っていますね。美味しいフルーツが差し入れで沢山送られてきます。朝はフルーツがついてこないので、なるべくフルーツでビタミンCを摂るようにしています。本当に皆さんから差し入れをいただいて支えられていると思っていますので、どうやって喜んで食べられるかを考えながらやっています。
レースの前日の食事は特に配慮していますか。
レースの前日は脂っこいとんかつみたいなものは避けた方が
良いと思いますが、学食にお任せしているので・・。もし、
こちらで作るようになれれば、そういうことを考えられたメ
ニュー作りをしていきたいなと思いますけれど。
学生は嫌いなものも全部いただきますか。
ぶつぶつ言いながらも食べています。でもいやなものは嫌み
たいですよ。鼻つまみながら食べていますけど。卒業生が毎
日トマトを食べるのが苦痛だった」と言っていましたが、そ
れも良い思い出なのではないでしょうか。
嫌いなものも好きになったということがありますもの
ね。
そうですね。この間、九州の方から高菜を送っていただい
て。高菜を炒めたら初めて食べて美味しいと言った東北出身
の学生がいました。全国各地から食材をいただきますので初
めて食べたという学生もいます。
選手たちはプライベートの悩み事等相談してくることはありますか。
相談というよりは、私一緒にいるので、ご飯の時の様子とかもありますし、配膳の時に一緒に話しながら、また学生同士で話をしている時に、何かおもしろそうな話だと一緒に話の中に入っていって話をするという形ですかね。将来のことについて、「こういう仕事をしてみたいんですよね」と言う学生もいますね。
深刻にちょっと話がありますという感じではなくですか。
そうですね。みんなで話すか、もしくは私が結構食堂に一人でいる時にフラッと入ってきて「こういう風に考えているんですよ」とか言うような学生もいます。
美穂さんがうまく心をつかんで学生に対してよくわかって気持ちを掴むから、話し易いし何かあったら相談しようかなといつもみんなにあるのだと思います。特別にではなく。何かあったら相談しようと思うのがとても大事だと思うのですよね。
家に帰ったらお母さんがいて、何となくお母さんと話すという感じですね。相談とかではなくて、気軽に話ができればいいなと思っています。話の中で「あれ、これちょっとおかしいかな?」と思うことは伝えればいいし「もっとやればいいんじゃないの」と言うことがあったら言ってあげればよいと思います。どちらかというと、私から押し付けるのではなく、何かを聞いて、その聞いたことに私の意見を言うような形にしたいと思っています。
美穂さんから言うのではなく学生の方から言わせるようにしますか。
最初は、相手に言わせておいて「あれちょっとこの子の考え違うかな」と思うことはありますが、それはそれで言わせておきます。4年生になってくると段々大人の考え方だったり、陸上部として、また部員としての責任だったり、チームで動くということに対してのことだったり考え方が修正されていったりするので。最初からこうだよ。と言っても意味が分からないので、そこは自分で考えてもらって、考えるための助言みたいなものはしていくようにはしたいと思っています。
下級生と上級生に対しては、私は接し方が少し違うかもしれません。4年生になったばかりの時に、急に奥さん厳しくなって怖かったと言われたことがあって。「4年なったらそんなこと言ったらだめだし、ちゃんとやりなさい」とか多分言ったと思います。卒業した後に「奥さん4年生になった途端に恐くなった」と言われました。4年生にはちょっと厳しめに当たります。
掃除は先輩後輩隔てなく実施しているようですが、お手伝いすることはありますか。
上級生と下級生で2人1部屋の部屋チームになっています。上級生が部屋長で、部屋チーム単位で掃除が決まっています。食堂担当、玄関ロビー担当、浴室担当となっていて平等にまわってきます。
学生が基本やっています。また、1年生だけがやるという仕事はあまりないですね。先輩が基本教えていくという形をとっています。
見てないようだけれどちょっと見て、配慮するというかお手伝いするという感じですか。
「こうなったんですけど、どうしましょうか?」と相談されると一緒にやります。
寮は自分たちの生活の場なので、大掃除は1年に2回位やるシステムになっていて、その時は全員で集まって「一斉のせい」で行います。いつもやらない洗濯機の下とか、そういうところも全部やります。洗濯機が寮に8台ありほとんどフル稼働しています。洗剤をきちんと洗濯槽の中に入れないと周辺がべとべとになったりするんですよね。寮長がいるので、基本私が気になっていても、寮長に言ってもらいます。また寮長は、毎日食事の始まる前に「何かありますか?」って聞いてきます。何もなければ「いいよ」と言いますが、気になっていることがあったりすると「こんな感じだから」と言うと、寮長が自分の言葉でみんなに伝えます。基本、学生に回してもらうような形にしています。
寮長は社会人になって良い経験になりますよね。自分だけではなくて周りを見るという経験をしていますね。
家でも今は大体ひとり部屋ですよね。このようなプライベートがないような所で、高校の寮生活を経験している学生は抵抗なく生活に入れますが、自宅からの学生は寮生活に慣れてないから、公共の場でやっていいことといけないことも徐々に分かってきます。例えば、食事の時間が7時からだったら7時2分とかに来てもすでにみんな待っているわけですよ。「いただきます」が出来なくで「なんで遅れたの」と言われ、そこで時間の大切さが分かってきます。なかなか出来ない経験をしているのかなと思います。
それぞれのメンタルヘルスをどのように支えていますか。学生たちが落ち込んだ時の配慮や言葉かけについて伺いたいです。
そこは実力の世界なので、こういうふうなアットホームな和気あいあいでありながら、勝負の
世界なので、そこはみんなも分かっています。ただ逆にですね。走れる子が「俺は、走っている
から良いだろう」と寮の規則を守らないなど、そのようなことをしたら絶対にいけないと思いま
す。走れる学生がマウント取るみたいな感じになるということはいけないと思います。
ここの寮は、学生寮として楽しい4年間だったなという思い出を作って欲しいです。また、必ず平等に日常生活を送って欲しいですね。後は勝負の世界だから。平等だから4年生は全員走れるよということではなくて、強ければ1年生が走ります。そこは、勝負の世界は勝負の世界として考えています。
生活しながらそういうことではないとだんだんと身についてくるんですね。
とにかく一生懸命やるということが重要って言うのは、監督も私も同じ考え方です。一生懸命にやって結果が出なかった学生に対しては、「何で走れないんだ」とか、「もうちょっと速く走った方がいいんじゃないの」とか、それは仕方ないことなので言いません。たださぼっていて走らない学生に対してはもう少しプッシュしていかないといけないとは思います。
うまく気持ちの切り替えが出来ず走れない学生とさぼっていて走らない学生については分かりますか。
いろいろですけれど。私たちも19年経っていますので、だんだんそういうことが分かってきています。その子の能力というものがあって能力がものすごく高い子は、たとえば二日前に走れば、頑張ってきた子を追い抜いたりするようなことがあるとするじゃないですか。そうすると、負けた子ではなくて勝った子に対してあなたは何でそれ位しか走れないのとは言いますよね。こっちの子よりも走れていても、そういうところは見極めています。
自分の時間が少ないと思いますが、気分転換とか自分時間がありますか。
なるべく作るようにしています。最初の頃はいつが終わりなのだろうと感じていました。これは強制的に作るしかないと思っています。ここにいるとインターホンで呼ばれて対応したり、その他のことをしたりして1日終わってしまうので、この時間は絶対に外出して「私はいません」という時間にすることがストレス発散かなと思います。
最後に青山学院の校友の皆様に箱根駅伝に向けてメッセージをお願いします。
学生は箱根駅伝に向けて毎日努力しています。「皆さんに応援されていることが、選手
にとっても私たちにとっても一番のモチベーションになります」。箱根駅伝の当日、「幟がたくさ
ん立っていました」と走った学生が報告してくれます。それが応援というか、力になって頑張っ
ていると思いますのでこれからも末長く応援していただければと思っています。
(インタビュアー・文 宮木初枝、写真 山﨑清貴)
夏真っ盛りの7月22日(土)、「箱根駅伝を応援する会」幹事会有志5名で長距離ブロックの練習見学のため相模原キャンパスを訪れました。
夏場は暑さを避けるため練習時間は夕方からとなりましたが、普段の練習とは異なった夏季合宿を直前に3000mタイムトライアルのメニューが組まれていました。午後5時から選手たちが徐々にグラウンドに集まり始め、それぞれがウォーミングアップを行ってレースに備えます。
午後6時レースがスタート。400mトラックを7周半、ハイペースでレースは展開し、あっという間にレースは終了しました。結果は黒田朝日選手(2年)が他の選手を大きく引き離してゴール、自己ベストを記録する選手も多くいて前期の締めくくりとして成果が出たようです。レースにはOBでGMO所属の下田裕太選手と岸本大紀選手も飛び入り参加して後輩たちと一緒になって走っていました。また、相模原市の本村市長(経済卒)もキャンパスを訪れて選手に激励を送っていました。
短時間の見学ではありましたが、さまざまなシチュエーションに恵まれて豊かな時を過ごすことができ、参加者は大満足でキャンパスを後にしました。
(文・写真:山﨑清貴)
「箱根駅伝を応援する会」会長挨拶
「学生3大駅伝」の登竜門として位置づけられている「男鹿駅伝2023」が、6月24日に秋田県男鹿市で開催されました。このレースで本学駅伝チームは、大会新記録である3時間14分43秒で優勝しました。誠におめでとうございます!
新チームとしてこの優勝は、秋シーズンに向けての自信と確かな手応えを掴んだかと思われます。これからの日々の練習にも、一段と力が入ることが期待されますね。
2023年6月26日
青山学院校友会「箱根駅伝を応援する会」
会長 柳田武好
本学硬式野球部が、東都大学春季リーグ優勝に引き続き「全日本大学野球選手権」においても、18年ぶり五度目の優勝を果たしました。おめでとうございます。
この野球部日本一の報は、本学陸上競技部長距離ブロックの選手達も祝福すると同時に、大きな刺激と励みとなったことでしょう。
そして、記念すべき「第100回箱根駅伝」向けて、王座奪還を目指す日々のトレーニングと走り込みに、今まで以上に力が入ってくることが期待される次第であります。
また、今大会での応援団とブラスバンド&チアリーディングチーム、多くの学生、校友といっしょに青学らしいスマートな応援で、選手達に勇気と更なる力を与えたことと思います。今大会を通じて、この応援の力の重要性を改めて実感させて頂きました。
われわれ「箱根駅伝を応援する会」も、箱根駅伝を含めた大学3大駅伝において今迄以上に選手達の力を更に引き出す応援活動を推進して参りますので、引き続き校友の皆様もお力添えの程、よろしくお願い申し上げます。
2023年6月11日
青山学院校友会「箱根駅伝を応援する会」
会長 柳田武好
(撮影/山﨑清貴)
第102回関東インカレが5月11日(木)から5月14日(日)までの4日間、相模原ギオンスタジアムで開催されました。
観戦に訪れた最終日は生憎の荒天のコンディションにも関わらず、スタンドは各大学の陸上ファンが駆けつけて応援を送っていました。
朝一番で行われたハーフマラソンでは本学から3名の選手が出場しましたが、残念ながら入賞を果たすことができませんでした。
続く3000mSC決勝では小原薫選手と黒田朝日選手が他大学の選手を大きく引き離し、見事ワンツーフィニッシュでゴールを駆け抜けました。その後行われた男子1部優勝者のタイムよりも6秒から8秒ほど速いタイムで、2選手とも大会記録となりました。
5000m決勝に出場した鶴川正也選手はゴール間際で接戦となりましたが日本人選手トップの3位入賞を果たしました。
初日の10000mタイムレースでは佐藤一世選手が日本人選手3位の6位入賞、3日目の1500m決勝では宇田川瞬矢選手と山内健登選手がワンツーフィニッシュでゴールしました。
(陸上競技部ホームページ競技結果をご覧ください)
今後は多くの大会や記録会、夏季強化合宿等を通して箱根駅伝のV奪還に挑みます。機会あれば是非応援に競技場に足をお運びください。
(陸上競技部ホームページ今後の予定をご覧ください)
~短距離ブロック女子選手も大躍動~
本学陸上競技部は長距離ブロックだけではありません。
短距離ブロックの女子1部では最終日400mハードル、800m、4✕400mで優勝を果たし、前日の三段跳びでもこの種目で初優勝を飾り、4種目で優勝を果たしました。今後青学陸上女子の活躍に目が離せません。
(文・写真:山﨑清貴)